ミーハー族の郵政民営化論
2005年8月28日
宇佐美 保
先の拙文《コラムニストの品性》に記述した林真理子氏が、小泉首相讃歌を歌いだすと、更に奇異な事態を生じます。
週刊文春(2005.9.1号)の林真理子氏の記述を次に抜粋します。
小泉さんがまたまたやってくれた。 あの記者会見を見て、私も拍手喝采をしたひとりだ。 「こうこなくっちゃ! やっぱり小泉さんだワ」 最近、頑迷な権力者というイメージが強くなり、少々がっかりしていたのであるが、あの記者会見は昔の「変人」と呼ばれていた小泉さんである。 自分の思うことは命がけでやる。 文句あっか、というあの強気は、小泉さんでなくては出来なかったろう。 ┈┈┈┈ これだけ全身全霊を込め、何かに向かっていく男の人を久しぶりに見た。今の若い人にとっても新鮮だったに違いない。芸能人のヤラセなんかと違う。本当に人が怒っている凄さに、多くの人は驚きと畏れを抱いたのではなかろうか。 私も経験があるが、怒りが頂点に達すると、すうっと頭が清澄になっていくのがわかる。クリアに冷静になった頭脳は、自分でも信じられないほど、論理的な言葉をつむいでいく。あの時の小泉さんもそうだったはずだ。あの記者会見は、歴史に残る名スピーチであったと私は評価しているのである。 もちろん反対の意見も多いだろう。一緒にテレビを見ていた私の母は、「こんなこと、道理が通らない」と怒っていた。 道理が通らないなんていうのは、小泉さんだって百も承知であろう。 しかしめちゃくちゃなことをしてもいい。小泉さんはただ郵政法案を通したいのである。郵政法案を通すことによって、この国の根本を大きく変えられるはずだと信じているから である。┈┈┈┈ 郵政法案は、単に法案じゃない。 「この国をいったいどうするつもりなんだ」 と、小泉さんは匕首を国民につきつけてきたのである。 「たらたら税金を使う国にするのか。ずうっと官がのさばる国にする体にふりまわされる国にするのか、おい、はっきりしろよ。決めるのはあんたたちだよ」 小泉さんは私たちに凄んでみせているので迫力がある。 ┈┈┈┈ 多少強引だって何だって、わが道を行く。信じる者の強さと明るさを、私は小泉さんにも感じるのである。 |
先ずは、林氏の次のような記述は、論理矛盾しています。
「怒りが頂点に達すると、すうっと頭が清澄になって┈┈┈┈論理的な言葉をつむいでいく」と書いていながら、「一緒にテレビを見ていた私の母は、「こんなこと、道理が通らない」と怒っていた。┈┈┈┈ 道理が通らないなんていうのは、小泉さんだって百も承知であろう」
と滅茶苦茶です。
斯くも滅茶苦茶な林氏が歌う小泉讃歌は、まるでヒトラー讃歌と同質です。
(林氏の文章を、小泉をヒトラーに置き換えて何ら矛盾は生じないでしょう)
「自分の思うことは命がけでやる。文句あっか、というあの強気は、ヒトラーでなくては出来なかったろう。┈┈┈┈多少強引だって何だって、わが道を行く。信じる者の強さと明るさを、私はヒトラーにも感じるのである」
そして、又、林氏は、選民意識が首をもたげ次のように記述しています。
最初記者会見を見た時、私は「週刊文春」の次の原稿は小泉さんのことを書こうと心に決めた。そして最後はこんな風に締めくくろうと思った。 「しかしこんなことをして世間が許すわけがない。おそらく自民党は大敗し、小泉さんはドン・キホーテと呼ばれることであろう。が、それでもいいじゃないか。小泉さんは日本に初めて現れた、全く新しい政治家として名を残すことだろう。それだけでもいいじゃないか。よし、今度の選挙は、何年ぶりかで、大きく『自民党』と書いてやろうではないか」 しかし世論調査によると、内閣支持率はぐんぐん上がっているそうである。どうやらあの記者会見に、大多数がまいってしまったようなのだ。みんなが私と同じことを考えていたとしたら、ちょっとイヤだけど仕方ないな。 |
林氏ご本人は「みんなが私と同じことを考えていたとしたら、ちょっとイヤ」と書き、林氏御自身が「みんなが同じこと」を否定されているようですが、私には、「林氏はみんなと同じ」で「ミーハー族」と感じています。
そして、林氏は次のように書かれています。
不安はある。もし自民党が大勝し、このやり方がクセになったらどうなるんだろう。 「憲法どうするんだ。やっぱり変えた方がいいんじゃないか」と小泉さんが言い出したら、今の勢いならどどーっと人が流れそうでこわい。 政治家というのは気の毒である。 どんなに魅力を持とうと、持てば持つほどそれはやがて危険と紙ひと重のものになっていくからだ。 |
ミーハー族の林さん!早く目を覚ましてください〜〜〜!
もう憲法改悪の流れが始まっているのですよ!
小泉氏は、とっくに“自衛隊を分かり易い軍隊に変える”と吹聴しているではありませんか。
この流れが、本物になる前に止めなくてはいけないのです。
「道理が通らないなんていうのは、小泉さんだって百も承知であろう。
しかしめちゃくちゃなことをしてもいい。小泉さんはただ郵政法案を通したいのである。郵政法案を通すことによって、この国の根本を大きく変えられるはずだと信じているから
である。┈┈┈┈
郵政法案は、単に法案じゃない。」
と自分の思い込みだけで小泉氏を持ち上げることこそ危険な兆候なのです。
先の「小泉」を「ヒトラー」に置き換えたように「郵政法案」を「改憲法案」に置き換えれば、この林氏の小泉讃歌(郵政法案讃歌)は、たちまち「改憲法案讃歌」に化けてしまうことを林氏は気付くべきです。
公に対して、小泉讃歌を歌う前に、郵政民営化とは何か、何故小泉氏が郵政民営化を推し進めるのか?を真剣に考えるべきです。
先ずは、評論家森田実氏の「郵政問題は「初めに民営化ありき」で本当にいいのか」とのホームページを見ますと次のような記述を目にします。
(http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/C0794.HTML)
郵政民営化問題に話を戻します。繰り返しますが、小泉首相は「どうしていま、郵政の民営化をしなければならないのか」について何も語っていません。マスコミも詳しい話は聞いていないはずです。ところがマスコミは、小泉首相の民営化論を当然のことのように扱い、報道しているのです。極論すれば、マスコミは郵政問題をほとんど研究もせずに、小泉首相の「初めに民営化ありき」路線の尻馬に乗ってしまっているのです。 ┈┈┈┈ 郵政三事業民営化の最大の狙いが、郵便貯金と簡易保険の合計350兆円もの金を国の管理から外すことにあることは明白です。この大金が株式会社の管理下に入れば、その先どうなるかは明らかです。金融庁の管理下に置かれます。金融庁は日本の金融を国際化しようとしています。国際化とは、現実には、米国の巨大ファンドの支配下に置かれることを意味します。巨大な資金が米国に向かって流出するようになるでしょう。ここに民営化の本当の狙いがあるのではないかと私は思います。 ┈┈┈┈ 資本家は自ら儲けるためには人を騙すこともします。それだけではありません。弱肉強食です。大多数の国民は、すでに小泉内閣と竹中金融庁と経済財政諮問会議の後ろ盾は米ブッシュ政権であることに気づいているのです。小泉構造改革が米国資本の利益をはかるものであることを知ってしまったのです。 |
しかし、森田氏は書いていませんが、「小泉首相が、どうしていま、郵政の民営化をしなければならないのか」の理由は、在日米国大使館のホームページを訪ねると直ぐに判明します。
なにしろ、在日米国大使館のホームページには、次のような要望書が掲げられているのです。
(http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20041020-50.html)
日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書 (2004年10月14日) 本年の要望書において米国は、日本郵政公社の民営化計画が進んでいることを受け、勢いを増している日本における民営化の動きに特段の関心を寄せた。これに関して、日本経済に最大限の経済効果をもたらすためには、日本郵政公社の民営化は意欲的且つ市場原理に基づくべきだという原則が米国の提言の柱となっている。 |
┈┈┈┈
なんと言おうと、
小泉氏は、ブッシュ大統領との約束を忠実に実行しているだけなのだ! |
という事が判ります。
そして、この米国の意向に沿うべく竹中氏は次のように発言していたのです。
(朝日新聞(2003年8月10日)より)
訪米中の竹中経済財政・金融相は7日、朝日新聞社のインタビューに応じ、小泉首相が自民党総裁選のマニフェスト(政権公約)の柱に掲げる郵政民営化について、「郵貯の資産総額は4大メガバンクの合計より大きい。それだけ大きい『国営企業』の存在は、市場経済に慣れ親しんだ(米国の)人たちには理解しがたいことだと思う」と述べ、実現に強い意欲を示した。 竹中氏は、4月に発足した郵政公社が税制面などで優遇されていることをふまえ、「歴史的な背景はあるが、競争原理を導入し、コーポレートガバナンス(企業統治)をしっかりし、競争力を高めていくことは不可欠だ」と述べ、民間金融機関との競争条件を整える必要性も強調した。 |
┈┈┈┈
竹中氏は、本来ならば日本人に良かれと言う方向性を打ち出すべきなのに、「(米国の)人たちには理解しがたい」と米国側に立った発言をしていたのです。
そして、森田氏の危惧通りに「郵便貯金と簡易保険の合計350兆円もの金」は「米国に向かって流出するようになるでしょう」。
なにしろ、「民営化された郵貯」が黒字運営されるとは考えられないのですから。
その懸念は、なんと「小泉内閣メールマガジン 第165号 2004/11/25」の松原聡氏(東洋大学教授)の『郵政民営化について』の記述に認められます。
郵政民営化について、国民の間で賛否が分かれているのは事実です。民営化に疑問を呈する議論に、頷けるものもあります。 たとえば、郵便貯金を完全民営化した場合に、25,000の郵便局の中の非採算局からは撤退するのでは、という懸念があります。また、融資経験がない郵貯にどうやって融資審査能力をつけるのか、という疑問も生じます。 |
その為に、「民営化された郵貯」は国債を買い続けるでしょう。
となると、国債市場が混乱します。
そこで次の朝日新聞(2003年10月31日)の記事が目につきます。
財務省は、巨額の国債の買い手になっている郵便貯金・簡易保険や公的年金を対象に市場外で売却する「非市場性国債」を発行する検討に入った。小泉首相が方針を示している日本郵政公社の民営化が実現する07年度までに導入したい考えだ。民営化後に、自主運用される巨額資金が国債市場の波乱要因になるのを避ける意味もある。 非市場性国債は、民間金融機関などが参加する国債市場での取引とは切り離し、満期までの保有を前提に直接買い取ってもらう仕組み。発行価格は、市場価格を参考に設定する。 国債の発行残高は6月末時点で、財政投融資の原資になる財投債なども含めて約520兆円。借金財政下で今後も国債の大量発行は避けられず、05年度以降は過去の債務の借り換えにあてる分だけで年間100兆円を超える発行が必要になる見通しだ。大量の国債が、市場で順調に消化できるかどうかについては、懸念が強い。中でも国債残高の3割強を占める郵貯・簡保、公的年金の動向が相場の波乱を招きかねないとの不安が高まっているため、導入を急ぐ。 |
そして早晩、民営化された郵貯は赤字経営に転落するでしょう。
そうしたら?
国際BIS基準を米国は強引に変えて来る?
(例えば、
BIS自己資本比率=BIS定義の自己資本/BIS定義の総資産 |
における、BIS定義の総資産部に相当する、「国債のリスク・ウェート」を従来のゼロから、20%とか50%とかに、(日本の国債は危険度が大だとか?)何かと言いがかりをつけて、アップさせてしまうかもしれません。)
米国資本が、「民営化された郵貯」を「長銀」同様に、乗っ取りやすくする為に!?
では、郵貯はどうすべきか?
民主党の、郵貯預け入れ限度額の1000万円から500万円への低減案に私は賛成です。
そして、最終的に郵貯を(民営化でなく)廃止すべきです。
徐々に、廃止すれば「350兆円」は、徐々に自然に民間銀行へ移行するでしょう。
(国鉄や電電公社には、鉄道線路、電話回線などのインフラストラクチャー(インフラ)が存在していましたが、郵貯の郵便局はそれらのインフラには程遠い存在です。
勿論、過疎地対策は別途必要ですが。)
でも、こうなりますと、多くの方々が仕事を失います。
どうするのでしょうか?
日本はもっと新たな産業を開拓すべきと思います。
(クロネコヤマトの『宅急便』のように)
その一つは、農作物の国産化(効率的な)、そして、石油代替エネルギーの開発等々。
では、その資金等は?
8月26日の「朝まで生テレビ!」で、荻原 博子氏(経済ジャーナリスト)が、次のように発言していました。
小渕内閣の時、景気対策として、 法人税率を、34.5%から30%へ 個人所得の最高税率を、50%から37%へ、 それとサラリーマン減税を行った。 しかし、不景気になると、サラリーマン減税だけが元に戻され、 法人税率、個人所得の最高税率は低減されたままだ、この点は早急に元の税率に戻すべき。 |
と訴えておられました。
それを受けて、社民党党首の福島みずほ氏は、
“その効果は、2.3兆円と試算される” |
と語っていました。
更に、共産党参議院議員の大門 実貴史氏は、
“企業の余剰資金は現在、82兆円にも上る” |
と訴えていました。
これらの資金を有効利用すべきではありませんか!?
誇り高い日本人が、何故助け合わないのですか?
何故、いつまでも「勝ち組」「敗け組み」と分かれていて良いのですか?
(それも、どんどんこれからその分化は激しくなって行くでしょう)
何かと日米が対立すると、「自動車(勝ち組産業)の関税問題」が浮き上がってきます。
それを避ける為に日本は譲歩を繰り返します。
(なにしろ、自動車産業(勝ち組産業)が日本の財政の支えでもあるのですから。)
その譲歩で、日本国民全体が被害を蒙ります。
しかし、変でしょ?
譲歩分は国民みんなに負担させて、利益の大部分を「勝ち組企業」が独占し、余剰資金を溜め込んでしまうのは!?
(そして、その企業の会長が政治に口出ししたりするのも変ですよね?)
(補足)
「朝まで生テレビ!」を、久しぶりに見てみたのですが、出席者が大声で他人の罵倒しているのに吃驚しました。
(「たけしのTVタックル」では、出席者が互いに大声で罵倒しあっていたので、私は、最近は全く見るのを止めたのですが、その番組の悪影響でしょうか?)
特に、自民党・参議院議員の山本 一太氏は、盛んに大声で罵倒していました。
その上、
“国民をばかにするのか!” “国民はそんなに無知ではない!” “国民は利口だ!” |
などと、国民を出汁(だし)に使っていました。
これこそ、いんちき政治家の常套手段です。
冗談ではありません。
国民は、コラムニストの勝谷 誠彦氏の発言通りに、“無知でバカです”
私だって、拙文《私が60年安保闘争で学んだ事》にも書きましたように、安保の「あ」の字も知らずに、国会へのデモに参加しました。
その上、小泉首相登場には歓喜の声もあげました。
そして、国民がバカだから、又、マスコミが国民をバカに導くから、現在のような小泉異常人気が継続しているのです。
先の太平洋戦争の開戦だって、国民は歓喜して祝ったのではありませんか?
林真理子氏をはじめ、皆様目を覚ましましょう。
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